「世界食料危機の時代」ややナナメ読みだったけど読了。


中国の食品や日本の食糧事情を主に農業の視点から書いてある本。

(引用ではなくやや意訳)
・日本の農業は新しく就農しようとする人間に対して高いハードルを用意する。
・1952年に施行された「農地法」が農業発展の妨げになる。「農地法」とは「耕作者のみが農地を所有することができる」という内容。農地を貸すと、借り手に耕作権が生じるため、売りたいときに売れない。
・2009年の「改正農地法」では法人も農地を借りられるようになったが、根本的な解決にはなっていない(所有は農家と農業生産法人のみのため)。
自民党民主党も農民票を獲得するため、JA等の既得権益を認めている
・2010年の10月に農水省はTPPに参加すると農業生産額が四兆一千億円減少し、ほぼ半減するという試算を出していた。しかしこれは輸入品と競合する品目は全て日本が負けるという非現実的な仮定を置いていた。コメすらほとんどすべて輸入品に置き換わるという計算になっている。


・韓国も日本同様の農業問題を抱えているが、アメリカとのFTAに踏み切った
・中国はASEANからの輸入品目にかけていた関税を徐々にゼロにし、全ての品目で2020年までにゼロにする。その理由の一つは、貿易協定を通して、この地域の再編成で立ち遅れる日本や韓国に先んじて、東アジアの経済的優位性を得るためである。


リカードの「比較生産費説」。取引をすることで、全体の総生産量は取引をしないよりも増える。
・モジュール型農作物。加工食品を規格化し、中間原料や食材として使いやすくする。例えばピザの生地、調味料、餡、皮むきサトイモ…。
・日本でも1950年代から適地適産のシステムが生まれた。戦後の深刻なコメ不足を解決するため政府はコメ作りを奨励していた。しかし1960年代にはコメが余ると予想されていた。そこで東北地方のリンゴ、甲信越のナシ、などその地に合った作物を集中して作ることを奨励した。


特産品はそれこそ戦国時代からあったと思っていたが、戦後政策だったとは。
農作物を規格化していき、品質を安定させ、国際取引しやすくする、というのはいいアイデアだと思う。
食料を海外に依存するのは有事のとき困る、と主張する人も多いと思うが、それは石油も同じ。それに食品は備蓄が困難。農作物輸出国も、それらが売れないとお金が入らなくてやっぱり困ると思う。
食料をそれらが本来持っている以上に価値があるとみなすのは、戦時中に飢餓に苦しんだ経験を必要以上に喧伝しているから、かもしれない。


ところで中国の食品の安全性についてかなりひどいことを書いているが、それとTPPや食料輸入自由化という主張は相反する部分も多いと思う。でもまあ、現状を正直に書いておいて、理想に向けて対策を講じていく、みたいな姿勢なのかも。


新型世界食料危機の時代―中国と日本の戦略
新型世界食料危機の時代―中国と日本の戦略